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東京地方裁判所 平成元年(ワ)1241号 判決

原告

角田邦久

右訴訟代理人弁護士

辻誠

河合怜

富永赳夫

竹之内明

三浦修

被告

船橋弘

三和都市開発株式会社

右代表者代表取締役

船橋弘

右被告ら訴訟代理人弁護士

田中英雄

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自三億五〇〇〇万円及びこれに対する昭和六三年九月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告三和都市開発株式会社(以下「被告会社」という。)が原告の叔父から原告所有土地上に借地権の設定を受けてこれを第三者に譲渡したことは右土地の所有権侵害に当たるとして、被告会社及びその代表取締役である被告船橋に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。

一本訴の事実経過

1  原告は、昭和六〇年六月以前から、別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有している(争いがない。)。

2  昭和六〇年六月中旬ころ、本件土地には、山村善博所有の別紙物件目録(二)(1)記載の建物、山本優行所有の同目録(二)(2)記載の建物、小暮昇一所有の同目録(二)(3)記載の建物、倉持忠夫又は柴田洋司所有の同目録(二)(4)記載の建物及び有限会社法務資料所有の同目録(二)(5)記載の建物がそれぞれ存在していたところ(以下同目録記載の各建物を「本件(1)建物」、「本件(2)建物」、以下同様といい、その全部を「本件各建物」という。)、本件(3)建物については、昭和六〇年九月三〇日ころ、売買により小暮恵子及び加藤實に所有権が移転したが、同年六月中旬ころから同六一年一月ころまでの間、原告と本件各建物所有者との間では、その敷地である本件土地の借地権の有無について法律上の紛争が生じていた。すなわち、

(一) 角田倉は、昭和一五年五月一六日、倉持福浦に対し、本件土地を、賃料一か月四六円三一銭、期間二〇年、目的木造建物所有、の約定で賃貸し、右福浦は本件土地上に本件(1)建物等を建築所有していたが、昭和四六年一二月死亡したことにより、倉持忠夫が右借地権等を相続により取得した。しかし、角田倉から本件土地の所有権及び右賃貸人の地位を相続により承継した原告は、昭和五〇年二月一日、右忠夫に対し、賃料不払により右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、そのころ忠夫ら本件各建物の所有者を被告として建物収去土地明渡請求訴訟を提起したが、忠夫らはこれを争い、その紛争が未解決の状態にあった。

(二) この間、本件(1)建物を昭和五六年に競落した山村善博は、原告を相手方として、競落に伴う土地賃借権譲受の許可を申し立て(当裁判所昭和五六年(借チ)第三〇〇六号)、同事件は同六一年五月六日に取り下げられるまで係属していた。

(三) 同様に、本件(2)建物を昭和五一年に競落した山本優行は、原告を相手方として、競落に伴う土地賃借権譲受の許可を申し立て(当裁判所昭和五一年(借チ)第三〇一八号)、同事件は昭和五六年三月一九日に却下されたが、その間の同五五年、原告に対し、借地権確認の訴えを提起し(当裁判所昭和五五年(ワ)第八二七九号)、同事件は同六〇年一一月二九日に取り下げられるまで係属していた。

(四) 更に本件(5)建物を競落した法務資料の代表取締役林長成は、昭和六〇年六月五日ころ、原告やその叔父である角田文蔵に対し、右建物の買取りを強く求めてきた。(〈証拠〉、弁論の全趣旨)

3  そこで、文蔵は、昭和六〇年六月中旬ころ、当時株式会社大和興産住宅販売(以下「大和興産」という。)に勤務していた被告船橋に対し、(イ)大和興産は自己の費用負担のもとに本件各建物を買い取った上、居住者を立ち退かせる、(ロ)原告は大和興産に対し右建物買取りと居住者の立ち退きの対価として本件土地上に第三者に譲渡可能な借地権を設定する、(ハ)原告は大和興産がこれを第三者に譲渡することを予め承諾する、との約定で、右事務の処理を依頼し、被告船橋は大和興産のためこれを受任した。また、被告船橋が大和興産を退社して被告会社を設立したのに伴い、文蔵は、昭和六一年一月ころ、被告船橋に対し、被告会社において大和興産に対する右依頼を引継ぎ、右同様の約定で、大和興産に代わって本件各建物を買い取った上、居住者を立ち退かせることを依頼し、被告船橋は被告会社のためこれを受任した(以下、大和興産のためにする右契約を「本件委任契約(一)」、被告会社のためにする右契約を「本件委任契約(二)」、この二つを併せて「本件委任契約」という。)。(〈証拠〉)

4  これを受けて、大和興産は、昭和六〇年七月一一日、法務資料から本件(5)建物を買い受け、翌一二日その旨の所有権移転登記手続をするとともにその明渡しを受けた。

また、被告会社は、昭和六一年四月から同年一二月ころまでに、本件(1)、(2)及び(4)建物を前記2記載の各所有者から、本件(3)建物を当時の所有者である小暮恵子から、本件(5)建物を大和興産から、それぞれ買い受けて、その旨の所有権移転登記手続又は所有権移転仮登記手続をするとともに、その明渡しを受けた(各登記のなされたことは争いがない。〈証拠〉、弁論の全趣旨)。

5  そこで、文蔵は、昭和六一年一〇月二四日ころ、被告会社に対し、本件土地上に、賃料3.3平方メートル当たり月額一〇〇〇円、期間三〇年、目的 堅固な建物の所有、特約 第三者に譲渡することができる旨の約定で借地権を設定したところ(以下「本件借地権」という。)、被告会社は、同月二四日、株式会社吉田屋に対し、本件借地権と本件土地上の本件各建物を、代金合計六億五五〇〇万円で売り渡し、右代金を全額受領した(争いがない。)。

6  次いで、文蔵は、昭和六一年一二月一日ころ、被告会社及び吉田屋に対し、被告会社の吉田屋に対する本件借地権の譲渡を原告の名において承諾した(争いがない。)。

被告会社は、文蔵に対し、右借地権譲渡の承諾料として、昭和六二年一二月一〇日に一五〇〇万円、同六三年四月一一日に一八七五万円、合計三三七五万円を支払った(〈証拠〉)。

7  原告は、昭和六三年七月二二日、原告を債権者、吉田屋を債務者として、本件借地権が無効であることを理由に、建築工事禁止等の仮処分を申請し(当裁判所昭和六三年(ヨ)第四三七一号)、同年九月二日、吉田屋との間で、同月一四日限り原告が吉田屋に対し和解金三億五〇〇〇万円を支払うのと引換えに、吉田屋が原告に対し本件土地を明け渡すこと等を内容とする訴訟上の和解をし、原告は、同月九日、吉田屋に右金員を支払い、本件土地の明渡しを受けた(〈証拠〉)。

二争点

1  文蔵が無権限であることによる不法行為の成否

(一) 文蔵は、原告を代理して本件土地につき被告会社に対し本件借地権を設定し、その譲渡を承諾する権限を有していたか。

(二) 文蔵が右権限を有していたことが認められない場合、本件借地権を設定し、その譲渡を承諾するについて、被告会社との関係で表見代理(民法一一〇条)が成立するか。

2  弁護士法七二条違反(以下「非弁活動」という。)による不法行為の成否

本件委任契約は非弁活動を目的とするか(これが肯定される場合には民法九〇条によりその報酬としての本件借地権の設定も無効となる。)。

3  右不法行為と損害との間の相当因果関係の存否

1において文蔵の代理権の存在が認められず、かつ、被告会社について表見代理の成立が認められない場合、又は2が認められる場合、被告会社が本件借地権の設定を受けてこれを吉田屋へ譲渡したことと原告の吉田屋に対する三億五〇〇〇万円の支払との間に相当因果関係があるか。

4  権利濫用

原告の本件損害賠償請求権の行使は権利の濫用に該当するか。

第三争点に対する判断

一文蔵の無権限を理由とする不法行為の成否

1  本件借地権の設定とその譲渡の承諾における文蔵の代理権の有無

(一) 角田家は、目黒区内に広大な土地を所有し、これを第三者に賃貸する累代の地主であった。同家の一〇余代目当主である角田倉は、昭和二五年七月に死亡したが、同人の長男利平が昭和一九年八月に既に死亡していたことから、倉が所有していた六万平方メートル余りの土地等は、倉の妻きん、次男文蔵、六男重信並びに長男利平の代襲相続人である長女千鶴子、次女久子、長男原告及び次男靖久らが相続した。その際、原告は、遺産分割協議の結果、右相続財産のうち本件土地を含む三万平方メートル余りの土地の所有権を取得した。

(二)  しかし、右倉死亡当時千鶴子は二〇歳になったばかりであり、その余の利平の子らはいずれも未成年であったため(千鶴子は昭和五年四月二七日生まれ、久子は同八年八月二七日生まれ、原告は同一一年八月二一日生まれ、靖久は同一五年一〇月一二日生まれである。)、角田家の長老である文蔵は、それ以来千鶴子や原告らの母喜代に代わり、事実上原告ら兄弟が相続した右土地を管理してきた。

(三)  文蔵による右管理の内容は、地代の取立てや改定ばかりでなく、土地賃借権の新規設定、借地権譲渡に対する承諾、土地賃貸借契約の合意解約、借地権の買取り、底地権の売却のほか、所得税等公租公課の支払等にもわたり、前記本訴の事実経過2(一)ないし(三)記載の各裁判も文蔵の判断で提起、遂行された。

原告ら兄弟は、文蔵による右管理の事実を了知しながらこれを容認していた。

もっとも、原告は、昭和四〇年ころから文蔵に対し、自己所有土地については自ら管理をしたい旨を申し入れていたが、文蔵は時期尚早であるとしてこれを拒否し、右管理を継続した。原告は、文蔵に対する遠慮や畏怖の念もあって、同人に対し右管理権の返還を強く求めることはしなかった。こうした事情は、原告の兄弟もほぼ同様であった。

(四)  文蔵は、倉死亡後まもなくしてから、利平の子らの相続土地を管理するため久子、原告及び靖久の実印を作成し、これを印鑑登録して自分の判断で使用していた。

これに対し原告らは、いずれも右事実を知りながら、その返還を強く求めることはしなかった(久子及び靖久は遅くとも昭和六一年九月ころになって初めて右実印の改印届をしたが、原告は本件の紛争が表面化した後である。昭和六三年七月ころに文蔵から右実印の返還を受けたにすぎないものである。)。

(五)  原告は、昭和六〇年六月中旬ころ、法務資料の林から本件(5)建物の買取り方を迫られた際、自分でこれを処理することなく、文蔵にその解決方を依頼した。

(六)  文蔵は、原告の相続土地のうち目黒区中町一丁目九八四番二宅地571.80平方メートルにつき、昭和六〇年一月二四日ころ大和興産に対し借地権を設定し、同日原告の名において、大和興産が右借地権を株式会社光建に譲渡することの承諾を与えた上、同社との間で右土地の借地権設定契約を締結し、その結果右土地上には昭和六一年ころ光建によってマンションが建築された。

原告は、文蔵の事務処理により右建物が建築されたことをそのころ知ったが、直ちに異議を述べることはしなかった。

(七) 吉田屋は、被告会社から本件土地の借地権を譲り受けて原告名による承諾を受けた後の昭和六二年五月、本件土地上に板囲いを設置した。

原告は、法務資料らから本件土地の明渡しを受けた後は同土地上に高層ビルディングを建設する意向を有していたことから、文蔵に対し右板囲い設置の理由を尋ねたが、同人は、右土地は近く更地として返還される旨答えるのみであった。

他方吉田屋は、昭和六二年一二月、本件土地上に建物建築を予告する看板を設置した。

原告は、再度文蔵に対しその理由を尋ねたが、同人は建物は建築しない旨一方的に答えたにすぎなかった。

このため原告は、文蔵の説明に不信の念を抱いて昭和六三年一月目黒区役所を訪ね、吉田屋から本件土地につき建築確認申請がなされていることを知り、文蔵に対しその事情の説明を求めたが、文蔵は原告に対し吉田屋による本件借地権取得の経緯を明らかにしなかった。

(八) 原告代理人定塚脩弁護士は、昭和六三年四月一五日ころ、吉田屋に対し、原告は本件土地を吉田屋に賃貸することを承諾したことはないとしてその占有権限を問い質す書面を送付した。

(九)  原告は、右書面が吉田屋へ送付された後の昭和六三年四月二二日、文蔵方で、文蔵と被告船橋に会い、文蔵の事務処理により吉田屋が本件土地上に建物を建築することになった旨を正式に告げられた。その際原告は、本件土地についての前記利用計画を説明してこれに異論を唱えたが、文蔵に対しその越権行為を指摘することはしなかった。

(一〇)  原告は、昭和六三年六月、本件原告訴訟代理人弁護士らに相談し、同年七月二二日吉田屋を債務者として前記仮処分を申請し、また同年九月二二日光建に対し前記(六)の契約は無権限者との契約である旨通知した。

(〈証拠〉、弁論の全趣旨)

以上の事実を総合すると、文蔵は、昭和六一年当時、被告会社に対し本件土地上に堅固な建物所有目的の賃借権を設定し、その譲渡を承諾する権限を含む本件土地の有効利用に伴う処分行為をなす権限を原告から事実上授与されていた(いわゆる「事実上の授権」)と認めるのが相当である。

2  してみると、文蔵の無権限を理由とする不法行為の主張はその余の点につき判断するまでもなく、理由がない。

二非弁活動を理由とする不法行為の成否

1  本件委任契約は非弁活動を目的とするか

弁護士法七二条本文は、「弁護士でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」と規定している。(以下「同条」という。)。

(一) まず、本件委任契約の受任者である被告船橋が弁護士でないことについては、当事者間に争いがない。

(二) 「法律事件」性の有無

同条所定の「法律事件」とは、権利義務に関し争いがあり若しくは権利義務に関し疑義があり、又は新たな権利義務関係を発生する案件を指すと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、本件委任契約(一)が締結された昭和六〇年六月当時、本件各建物の所有者と本件土地の所有者である原告との間では借地非訟事件や民事訴訟事件が係属するなどし、本件土地についての借地権の有無をめぐる紛争が生じていた。また、本件委任契約(二)が締結された同六一年一月当時においても、本件(5)建物の所有者であった大和興産は別として、その余の本件各建物の所有者と原告との間では右借地権の有無につき争いのある状態が続いていた。文蔵はこれらの紛争を一挙に解決した上、本件土地を優良な賃借人に新規に賃貸するため本件委任契約を申し込み、被告船橋はこのような事情を知って、本件各建物の買取りと建物居住者の立退きを内容とする本件委任契約を締結した(前記本訴の事実経過2、3、〈証拠〉)。

そうであるとすれば、被告船橋は「法律事件」に関し委任契約を締結したものというべきである。

(三) 「法律事務」性の有無

同条所定の「法律事務」とは、法律上の効果を発生変更する事項の処理を指すものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、本件委任契約において被告船橋が処理すべき事務は、本件各建物の所有者からこれを買い取り、その明渡しを受けることであるが、これが完了すれば本件各建物所有者が有すると主張していた本件土地上の借地権も当然消滅する関係にあるから、右事務は同条所定の「法律事務」に該当すると解するのが相当である。

もっとも、被告らは、本件各建物の買取りやその明渡しは不動産業者である被告会社等が本件土地の借地権を取得するため自己の名で自己の計算のもとにしたから同条に触れるものではない旨主張する。しかし、同条で禁止する「法律事務」の取扱いとは必ずしも委託者本人の名で同人の計算において行う場合に限る理由はない上、実質的にみても、本件では、右建物の買取りとその明渡しは本件土地につき借地権を有する旨主張する各建物所有者から本件各建物の明渡しを受けて右借地権をめぐる紛争を解決する手段にすぎないというべきである。

したがって、被告会社等が借地権の設定を受けるため自ら当事者としてその出捐のもとに本件各建物を買い取り、その居住者を立ち退かせたとの事実は前記認定を妨げるものではない。

(四) 「報酬を得る目的」の有無

本件委任契約においては、前記受任事務を処理することの対価として、本件土地上に第三者に譲渡可能な借地権を設定することが合意されていたこと及び右借地権は本件土地の立地条件等から相当な価値を有するところ、被告会社は現に右借地権を大して価値のない本件各建物と一緒に吉田屋に対し六億五五〇〇万円で売却していることを考慮すると、被告船橋は「報酬を得る目的」で本件委任契約を締結したことが明らかである。

(五) 「業務」性の有無

同条所定の「業とする」とは、反復的に又は反復の意思をもって他人の法律事件に関して法律事務の取扱い等をし、それが業務性を帯びるにいたった場合をさすと解すべきである(最高裁昭和四七年(オ)第七五一五号同五〇年四月四日判決民集第二九巻第四号三一七頁参照)。

(1) 原告は、「宅地建物取引業者(以下「宅建業者」という。)である被告船橋は、その営業行為として、本件借地権の取得とその第三者への譲渡を企図し、その営業目的を達成するため本件各建物の立退交渉を引き受けたから、その立退交渉自体業務性を帯びており、反復の意図をもって行ったと解すべきである。」と主張する。

しかし、被告船橋が宅建業者であり、その営業行為として本件借地権を取得し、それを第三者へ譲渡するため本件委任契約を締結したとしても、そのことから直ちに他人の法律事件に関して法律事務の取扱い等を反復する意思をもっていたとは認めることはできないというべきである。

(2) 次に原告は、「被告船橋は本件委任契約以外にも文蔵の依頼を受けて借地権取得の目的で本件同様いわゆる立退交渉をした事実があるから、同人は法律事件に関して法律事務を反復的に処理したものである。」旨主張する。

なるほど被告船橋は、昭和五八年ころ以降文蔵の依頼により原告所有の目黒区中町一丁目九八四番二の土地及び同番三の土地の各借地人との間の立退交渉に当たり、その報酬として、前者については大和興産に対し、後者については被告会社に対し、それぞれ譲渡承諾付の借地権の設定を受けた(〈証拠〉、弁論の全趣旨)。

しかし、右各立退交渉が依頼された当時原告と右各借地人との間で右各土地につき法律上の紛争が発生していたとかその発生が予想されていた等の事実は証拠上認めることはできない。

そうであるとすれば、右各立退交渉の受任は、いずれも法律事件に関してなされたとは認められないから、被告船橋が本件委任契約の他に右各立退交渉を受任したことをもって本件委任契約の非弁活動としての反復性を認めることはできないというべきである。

(3) なお、被告船橋は、本件委任契約(一)及び(二)のとおり、報酬を得る目的で法律事件に関し法律事務を取り扱うことを内容とする二個の契約を締結してはいるが、右両契約はその目的を等しくし、本件委任契約(二)は、同(一)締結後被告船橋が大和興産を辞めて被告会社を設立したことに伴い従前の契約関係を被告会社に引き継ぐため締結されたものであるから(前記認定のとおり)、右両契約は被告船橋においては同一の意思に基づいて締結されたと解され、これをもって被告船橋が反復的に又は反復の意思をもって本件委任契約(一)及び(二)を締結したとは認めることができないことは明らかである。

(4) その他、被告船橋が業として本件委任契約を締結したことを認めるに足りる的確な証拠はない。

2  したがって、本件委任契約が非弁活動に当たることを理由とする不法行為の主張も理由がない。

(なお、仮に右1(五)記載の「業務性」の点が立証され、本件委任契約がいわゆる非弁活動に該当するとしても、本件借地権の設定及びその譲渡は右契約の対価として給付されたものであるから、いわゆる不法原因給付としてその返還を請求することができず、したがって右借地権の設定等の無効を主張することができないと解すべきである。)

三よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求は全部失当であるからこれを棄却する。

(裁判長裁判官北山元章 裁判官畑中芳子 裁判官長野勝也)

別紙物件目録(一)(二)〈省略〉

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